覗込
出会い頭にじっと見つめられ、冬師郎はそれなりに虚をつかれた。
桃は何も言わず、彼の目を覗き込んでいる。彼女の真剣なその様子は、どこか必死さすら伺えた。
始めはたじろいだ冬師郎だったが、すぐに冷静を取り戻して尋ねる。
「・・・何か用か?」
「・・・っ」
桃の瞳が僅かに揺らいだ。何か伝えたい事があるのだろうか。だか何かの事情で声が出ない、もしくはここで話すことができないのか。
少し考えて、思い付いたことを確認してみる。
「風邪で喉をやられたのか?」
「・・・っ」
「やばい奴にでも見張られてるのか?」
「・・・っ」
仕草で答えられるように聞いたのだが、桃から明確な回答は得られない。ますます必死になって彼の目をじいっと見てくる。
これ以上どうしろと言うのだ。
「・・・わ、ひゃっ」
良案が思い付かない冬師郎は、とりあえず桃の髪を両手でわしゃわしゃとかき混ぜた。暫く前に短く切られた黒髪が、彼の手をくすぐる。その感触が意外と心地よくて、冬師郎は暫くその手を止めなかった。
始めは驚きの声を上げつつも冬師郎を見つめ続けていた桃だったが、いつまでも髪をかき回されることに耐えられなくなる。
「っ・・・ひ、日番谷くん、髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよ」
「・・・」
「も、もう勘弁して下さい」
「・・・」
「う・・・いきなりじろじろ見てすみませんでした」
「・・・」
「え、えと、何も言わなくても、言いたいことが伝わるか試してました」
「・・・」
「乱菊さんとか、やちるちゃんとかとやってて、日番谷くんはどうかなって思って・・・」
「・・・・・」
「す、すいません・・・」
そこまで桃に言わせて、やっと冬師郎は桃の髪から手を離した。思い切りかき回された髪は、盛大に四方八方へと跳ねている。
「お前の言いたいことなんか、さっぱりわからないな」
「うう・・・日番谷くんならいけると思ったのになあ」
「・・・お前は、俺の言いたいことがわかったな」
「まあ、怒ってる感じだったし、それに・・・」
くしゃくしゃの髪を揺らして、桃がへらりと笑う。
何故かこの時は、桃が言いたいことを冬師郎も察することができた。
「日番谷くんとは、ずっと一緒だもの」
桃がそう言う前から、どんな言葉を返せばいいか考えていた冬師郎だったが、結局思い付かずに無言で俯く。
彼を優しい笑みで見下ろす桃は、冬師郎が何を思ったかわかったのだろうか。