贈包
「しまった・・・」
くしゃりと髪をかき上げて、冬獅郎は大きく息を吐いた。
先ほど、乱菊に五番隊への使いを頼んだのだが、今になって追加で五番隊に(と言うか桃に)確認しなければならないことが出てきてしまったのだ。これならこの仕事が終わってから、自分で出向いた方が効率がよかった。乱菊の机上には、まだ処理されていない書類が積み上がっている。それほど時間のかからない用事を頼んだはずなのだが、どこかで寄り道でもしているのか、なかなか部下は戻らない。
代わりにこの書類を片付けるか、自分も今から五番隊へ足を運ぶか、悩みかけたところに乱菊が戻ってきた。
「ただいま戻りましたー」
扉を開けた彼女の手に桃色の小さな包みが乗せられているのが視界の端に入ってきた。誰からのものか、何故か聞かなくてもわかる。どことなく嬉しそうに見える乱菊へ視線を向けると。
「あ、っす、すいません隊長!確かにこれは雛森からもらったものですが、その、隊長の分も受け取ると言ったんですけど、あの、断られてしまいまして!き、きっと隊長の分は別に素晴らしいものが用意されているはずだと思うんで、そんな怖い顔して睨まないで下さいっ」
「俺の分はどうしたとか思ってねえよ」
彼女の随分と取り乱した口振りから察するに、桃は断ったと言うより「日番谷くんの分はないんです」とでも言ったのではないかと推測される。自分の機嫌が悪いのは、二度手間になってしまった仕事についてであって、桃が乱菊だけにあげた何かは関係ない。断じて。
「雛森は執務室か?」
「あ、いえ、他にもこれ配るとか言ってたんで、もういないと思います。えっと、そんなことはきっと恐らくないだろうと思いたいんですが、もしも隊長の分はないとか言われても落ち込まないで下さいね」
「そいつの催促に行くんじゃねえよ。仕事で聞きたいことができたから行くだけだ」
乱菊はぽかんと不思議そうな顔をしてから、まるで可愛らしい子犬を眺めるかのように頬を緩めた。
「ああ、そうですね。お仕事は急いだ方がいいですもんね」
「一応言っておくが、嘘でも言い訳でもねえ」
「わかってますって。雛森は一番隊から順に回るとか言ってましたよ。今なら三番隊くらいにいるかも」
「全く信じてねえだろ」
「大丈夫ですよ。何もくれなくたって、雛森は隊長が大好きですから」
「だからそれは関係ねえって言ってんだろ!」
冬獅郎は大声で言うと、乱暴に扉を開けて詰め所を出た。母のような優しい表情で手を振り見送る乱菊に、早く書類を片付けろと吐き捨てて。