不逢

「お、日番谷隊長。雛森ちゃんが探しとったで」

そう声をかけられるのは何人目だったか。昨日からちらほらといたのだが、未だ桃とは会えていない。こちらの仕事も忙しいのだが、伝え聞くところによると五番隊もかなり慌ただしいとのことだった。そんな中で自分を探し回るほどの用事とは、一体何が起きているのか。ただでさえごたごたがあって精神的にもよろしくないこの状況でさらに追加された心配事に、冬獅郎は頭を掻きむしりながら溜め息を吐く。
「何の用か、言ってたか?」
「いや、お互い忙しなくて聞かんかった」
いつもの信憑性に乏しい薄ら笑いでギンが言う。何か隠し事があるのかとも思ったが、それを詮索する時間も余裕も今はない。
「そうか」
「ほな、運命の二人が出会えるよう祈っとくわ」
ひらひらと片手を振って立ち去るギン。三番隊もまだ忙しいのかもしれない。今回も桃の意図はわからず仕舞いだったが、まずは仕事を片付けなくては。

□■□

桃のことを頭の片隅に置きつつも、現場の後片付けや執務に忙殺されていたら、今日もあっと言う間に日が暮れた。一昨日に現場であれこれあってから、心休まる暇がない。乱菊も目の下に薄い隈を作っていたので、早めに休むよう執務室から引き上げさせた。終わりが見えてきた作業を、今日中に片付けて明日はいつも通りに過ごしたいところだ。気にかかることはあれこれあるが。

大きく溜め息を吐いたところで、執務室の扉が乱暴に開かれる。

「シロちゃん!」
扉の音に驚き、桃の大声に驚き、彼女が自分の元へ近づいてきていたことに気付けなかったことにも驚いていた冬獅郎は、一瞬呆然とした。なので駆け寄ってきた桃が、両手を広げて机の上にダイブし、そのまま自分を抱きしめてきても、何も言えなかったし、動くこともできなかった。
「遅くなってごめんね。大丈夫?」
ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめてくる腕の力と対照的に、声音はとてもやさしくて、冬獅郎はますます混乱する。自分は夢でも見ているのだろうか。
「・・・・・何、の話、だ・・・?」
ほぼ回転していない頭で、何とか言葉を絞り出すと、桃がさらに腕の力を強めてきた。彼女の力は大したことないはずなのに、何故か苦しい。
「お仕事で、辛いことがあったって聞いたの。だからシロちゃん大丈夫かなって」
その言葉に息が止まる。大丈夫だと言いたかった。お前が気にするようなことじゃないと、すぐに返したかったが声が出ない。
「すぐに来たかったんだけど、こんな時間になっちゃってごめんね」
「・・・・・別に」
「うん、遅くまでお仕事お疲れ様」
「・・・・・お前も、だろーが」
「うん、でもシロちゃんの方が大変。私の方は一段落したから、手伝うよ」
「いや、いい」
桃が「でも」と言いかけるが、その肩に頭を乗せて黙らせた。もういろいろと限界だ。
「もう寝る。仕事は明日でいい・・・」
「・・・そっか。ゆっくり寝てね、シロちゃん」
「日番谷、隊長・・・だ・・・」
何とかそれだけ返すと、意識はあっと言う間に闇に落ちた。