真実

いつものようにサスケが剣玉を鳴らしつつ歩いていると、前からほたるがやって来た。
別に話すこともないので、普通にすれ違おうとする。

「・・・の・・・・・・・・なんだ・・・」

消えそうなほたるの声。しかし、それはしっかりとサスケの耳に届く。
サスケは思わず剣玉を道端に落とした。愕然としてすれ違うほたるを見上げるが、ほたるは気にもせず歩み続ける。
呼び止めればいいものを、それすらできずにサスケはただ立ちすくんでいた。

いつものようにゆやの金で宿をとり、一行はそこで思い思いにくつろいでいた。
昼間から壁際に座り込んで酒を飲む狂。すでに追加分はゆやに買ってくるよう命令済みだ。 梵天丸と幸村も隣で酒瓶を抱えながら取り留めのないことを語り、へらへらと笑っている。はっきり言って、とても天下を目指す男たちには見えない。
「ゆやはんまだ帰ってこんのかいな~」
わいも付いて行くんやった、と床に転がりながら言う紅虎。やることがないらしい。
「今更そんなことを言っても遅いですよ」
アキラが不快そうに眉根を寄せてたしなめる。
「んなこと言うて、ほんまはアキラもゆやはんと一緒に行きたかったんちゃうん?」
「・・・黙りなさい」

そんなだらけた空気が、瞬時にして張り詰めた。

視線を向ける一同の先には、肩で息をするサスケの姿。
「ね、姉ちゃんは!?」
その言葉に、更に緊張が走る。
「どうしたんですか!?」
「ゆやはんに何かあったんか!?」
アキラと紅虎が詰め寄るが、この場に有益な情報はないと判断したサスケは舌打ちして身を翻そうとする。

「サスケ、ゆやさん独り占めはずるいんじゃない?」

何があったのか教えてほしいなあ、と幸村に言われ、サスケは顔をしかめた。主の命令では、このまま黙っていることはできない。
「さっき、ほたるとすれ違って・・・」
言い辛そうに、視線を逸らして。
「その時あいつが・・・独り言で・・・」
暫し逡巡の後、サスケが言う。

「・・・ゆや姉ちゃんは、自害する気だって・・・」

「チンクシャがんなことするわけねえだろ」
吐き捨てるような声。怖いほど深い紅い目が、サスケを突き刺す。思わず身を強張らせるサスケ。
狂はすぐに視線をそらすと、手にした酒瓶の中身を一気に飲み干した。そして気だるそうに立ち上がる。
「狂さん、どこ行くの?」
「酒」
幸村の問いに短く答えると、狂は部屋を出て行った。

取り残された一同の胸中を代表するかのように、梵天丸が大きく溜め息を着いて苦笑する。
「素直にゆやちゃんを探しに行くって言やいいのによ」
「ほんと、素直じゃないよね~」
「と、とにかくわいはゆやはん探してくるわ!」
「私は西を探します」
「俺は東にするぜ」
大雑把に打ち合わせをし、宿に幸村を留守番させて残り四人も部屋を後にした。

狂はかなりイラつきながら町を歩いていた。その不機嫌さは、周りの人間が彼に道を開けるほど。
そして彼は、見た目ただ真っ直ぐ前を見て歩いているようで、実は視界に超人並みの注意を払っていた。

探すは、あの金糸の髪。

「・・・・っ」
しかし彼が見つけたのは、別の金髪だった。
「あ。狂だ」
こちらに気付いたほたるへ、無駄と思いつつも一応歩み寄る狂。
「おい、チンクシャ見たか?」
「・・・・あー・・・うん。見た」

思わぬ答えに、狂は軽く目を見開いた。
「どこで見た・・・」
絶対知らないだろうと思われたほたるが、ゆやの居場所を知っていたという驚きに、狂の声音が硬くなった。
幸村ならばほくそ笑んで狂をからかったであろうが、ほたるはふらりと視線を彼方へ向けて考える。
「えーと。確か・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「わからなくて言えねえのか、わかってて言う気がねえのかはっきりしろ・・・!!」

短気な狂に掴みかかられ、ほたるはぽんと手を打った。
「思い出した。あっち・・・・」
狂はそれだけ聞くと、礼も言わずに背を向ける。
「・・・・だったような気がする」
ほたるの台詞はまだ途中だった。

「・・・え?狂?まさか、迎えに来てくれたの?」
ほたるの言った方には、本当に数本の酒瓶を背負ったゆやがいた。ほたるの言葉を二割ほどしか信じていなかった狂は、内心ゆやと同じくらいに驚いていたりする。
信じられない!と叫ぶゆや。更に、明日は雨だ雪だと騒ぐ。
「うるせえぞチンクシャ・・・さっさと酒を運べ」
普段と変わらないゆやの様子に、狂は口の端を小さく緩めて歩き出した。

「ねえ、私に一人で持たせてないで、少しは手伝ったら?」

ゆやが恨めしそうに言うと、いつものようににやりと笑った狂が、彼女の背から酒瓶を一つだけ手に取る。その酒を口に含み、ゆっくりと飲み干してから一言。

「下僕のくせに何ほざいてんだよ」

頬を膨らませ、更に文句を言うゆやの横で、その声を聞きながら狂は酒を味わった。

その頃、宿屋に帰ってきたほたるは、ゆや捜索を断念して同じく宿屋へ戻ってきていた男たちに囲まれ『ゆや自害疑惑』の真相を問い詰められていた。
「さあさあさあ!洗いざらい吐いてもらおうやないか!!」
「今日はまだ何も食べてないから、吐くものないけど」
「そう言う意味じゃねえ。ほたる、お前どうしてゆやちゃんが死ぬ気だとか思ったんだ?」
梵天丸の言葉に、首を捻りつつ考え込むほたる。いつもの仏頂面だが、恐らく考えているのだろう、と一同は思いたかった。

「・・・あー・・・確か、町で椎名ゆやと会って、話して・・・

『・・・なんであんたは狂と一緒にいるわけ?危ないし。死ぬよ?』
『危なくてもいいんです。私、もっとみんなとこうして旅がしたいから』

・・・って。だから、椎名ゆやは死ぬ気なんだなっておも」

『紛らわしいんだお前はあぁああ!!』
「・・・何怒ってんの?」
ほたるのぼーっとした声に、一同はものすごい疲れを感じてその場にへたり込んだ。