助力
狂の朱雀が炸裂したため、そこ一帯の地面は荒れ果てていた。
事切れた敵に背を向け、狂はゆやの元へ歩み寄る。ゆやの腕には、傷だらけのサスケが抱かれていた。
「あ、ありがとう。狂」
「チンクシャ・・・勝手にふらふら出歩いてんじゃねえよ。てめえはガキか」
子供扱いされ、ゆやのこめかみが引きつる。しかし、勝手に狂から離れて敵に襲われ、助けられた身分なので文句を言うわけにもいかず、ゆやはぐっと唇を噛んだ。
反論してこないゆやに、狂はにやりと笑いながら更に口を開く。
「ああ。そういやお前はガキだったな。中も外も」
「・・・・っ」
「もう少し胸が育ってもいいんじゃねえか?まさかそれでもう成長しきってるわけじゃねえだろうな?」
「うるさいわね!私はこれからサスケ君の手当てをするんだから、黙ってなさいよ!!」
あっさり逆上したゆやにくつくつと笑いながら背を向ける狂。そして少し離れたところに腰を下ろすと、煙管を取り出し吸い始める。
助けてもらったというのに怒鳴りつけてしまったと、軽い自己嫌悪に落ちつつも、ゆやは言葉通りサスケの手当てを始めた。
サスケは、虚ろな目のまま拳をきつく握り締めていた。
ゆやは慣れた手つきでサスケの腕に包帯を巻いていく。
その間、サスケは視線を落として地面を見つめていた。じっと、微動だにしないサスケに気付いたゆやは、手を止めてその顔を覗き込む。
「サスケ君?もしかして、痛い?」
ごめんね、と謝るゆやに、サスケは目を見開いて首を振った。
「そこらのガキじゃあるまいし、そんなわけねーだろ。姉ちゃんは何も悪くねえよ。むしろ・・・」
そこで言葉を切り、また俯く。
「その・・・いつも手当てさせて、謝るのは俺の方だ・・・」
悔しそうに唇を噛み『悪ぃ・・・』と呟くサスケ。
だが、サスケが謝ったのはその理由だけではない。あの時、狂が来なければ、自分とゆやは敵に殺されていた。ゆやを守ることができなかったことと、狂がその敵を簡単に倒してしまったことと、色々なものが交じり合い、サスケは息苦しさに顔をしかめていた。
そんな彼の様子をぽかんとした顔で眺めていたゆやは、不意に腕を伸ばし。
そして、サスケをきつく抱き締める。
怪我と、己の不甲斐なさに落ち込んでいたサスケは、その手を避けることもできずにすっぽりとゆやの腕に収まった。
「っな、ねっ、姉ちゃん・・・!?」
顔を真っ赤にしてサスケが硬直する。ゆやは、嬉しそうに笑ってサスケの頭を撫でた。
「ありがとう」
抱き締められ、頭を撫でられ、更に礼まで言われて、訳のわからないサスケは唖然と口を開く。
ゆやはもう一度『ありがとうサスケ君』と言うと、サスケから腕を放した。そして、サスケと目を合わせてにっこりと笑う。
「私ね、戦う時は全然役に立てないから、せめて手当てくらいは頑張ろうと思ってたの。でも、灯さんがいてくれるから手当てなんかほとんど必要ないみたいだし、ますます役立たずになっちゃったなあって・・・少し落ち込んでたから。だからね、サスケ君にそう言ってもらえて嬉しい。私がしてることが、無駄じゃないって思えて嬉しいの」
そう言って微笑むゆやを、サスケは放心気味に眺める。
「・・・姉ちゃんは、全然役立たずなんかじゃねえよ」
皆がこうして共にいるのは、鬼眼の狂という存在があるからだけではない。何度もあった死線を潜り抜けてこれたのも、皆と、そしてゆやがいたからだ。
「サスケ君は優しいね」
そう言って、ゆやは再びサスケの手当てを始める。今度は、サスケの視線はゆやの手元に注がれていた。
本当は、ゆやの顔を眺めていたかったのだが、そうするとゆやの背後から吹き付ける殺気を顔から浴びなければならない。
あの紅い眼に睨み殺されないよう、サスケはじっとゆやの手元だけを見つめるのだった。