埋葬
道端で、ちょこちょこと動いているそれが目に留まった。
からんと下駄を引きずって近付くと、小さな蟻が死んだ蝶を引きずっている。
横に揺れながらよたよたと進む蟻。しゃがみ込んでそれを暫く眺めると、ほたるは不意に立ち上がって辺りを見回した。
「何やってんだほたるの奴」
「知りませんよ。どうせまた虫でも見つけたんじゃないですか」
正にその通り。ほたるのいるところから結構離れた木陰で寝そべる梵天丸に言うと、同じく涼しいそこに腰を下ろして休むアキラは溜め息を吐いた。
「虫なんか突いて何が楽しいんですかね。私には理解できません」
「まあ、趣味は人それぞれだしなあ」
「あら。では皆さんの趣味は何ですの?」
先ほどまで灯と狂の隣を奪い合っていた阿国が、振り返って興味深げに尋ねる。
「俺様の趣味か?それはだな・・・」
自信満々に語りだす梵天丸を押しのけ、灯や幸村たちも加わり、そこは趣味の話題で盛り上がっていった。
その頃ほたるは、辺りをうろついて丁度いい棒を見つけだし、蟻のいた場所へ戻ってきたところだった。
「・・・あれ?」
しかし、そこには何もない。棒切れを掴んだまま立ち竦むほたる。
ぼんやりと辺りを見回すと、何となく先ほどの蝶を思い出させる金色が目に入る。
「何してんの?」
歩み寄って尋ねると、しゃがみ込んで地面を見つめていたゆやは小さく肩を震わせ顔を上げた。
「ほ、ほたるさん、ええと、その、私もたまには、ほたるさんみたいに虫を突いてみようかと・・・」
困ったように笑うゆやの左手には、すでに事切れた黄色い蝶。
そして地面には、先ほどほたるの探していた蟻と、何故か小さな米粒の固まりが置いてある。これはつまり、ゆやが蟻から蝶を取ったということか。
「何で、そんなことしてんの?」
「え?それを言うならほたるさんだって、どうして虫を見つけると突くんですか?」
「・・・・・・何でだっけ」
相変わらずのほたるに、ゆやはくすくすと笑う。
「そんなものですよ」
「あんたも、そんなものなの?」
何故かわからずに、蟻から蝶を引き離したというのか。
ゆやは、小さく笑って頷く。困ったような、悲しそうな笑みで。
その後、ゆやは地面を掘って黄色い蝶を埋めた。
小さな小さな土の山に、ほたるが持っていた棒を衝き立てる。ただの棒でも、目印くらいにはなりそうだ。
「こんなことしても、意味ないと思うけど」
「・・・はい。でも、ほたるさんがお墓を作ってくれたこと、この蝶はきっと喜んでます」
「墓を作ったのはあんただよ」
ほたるはただ、ゆやを眺めていただけだ。
しかしゆやは首を横に振って、地に立てられた棒を指差す。
「私と、ほたるさんです」
そう言って、ゆやは土を払うと墓に向かい手を合わせて目を閉じた。
ほたるはただ地面を見つめて、少しだけ蝶のことを考えた。
あのまま蟻に喰われるよりは、こうして埋められて祈ってくれた方が。
「・・・嬉しいかも」
「何がですか?」
「・・・・・・・・何だっけ」
二人の足元では、先ほどの蟻が米粒を運んでいた。