推測
薄水色の空に、雲が数えられる程度。まだ少し暑い陽気だが、たまにふわりとそよぐ風が、蒸した空気を散らしてくれる。
草原に横たわり、先ほどまでサスケと空を眺めていたゆやは、すっかり寝入っていた。最近は激しい戦いが続いたため、彼女も疲れが溜まっているのだろう。
サスケは、ゆやの前髪に落ちた枯れ葉に気付いて、彼女の髪に触れた。
こんなにも無防備で、よく独りで生きてこられたものだと思う。だが、今彼女がすやすやと眠っているのは、自分たちが傍にいるからなのだろうと推測し、ほんの少し誇らしくなった。
本当は、自分「たち」ではなく、自分「が」傍にいるから、だとよいのだが。
安心しきった寝顔は、普段より幼く見える。最年少である自分よりも、今の彼女は幼いのではないかとサスケは思った。
ゆやの髪は自分のものよりずっと柔らかい。のんびりとはとても言えないこの旅の中で、いつ手入れをしているのか不思議に思う。
枯葉を退かして、金色の髪を軽く梳いた。指の間をさらさらと落ちる髪の感触に、枯葉の屑が残っていないことを確認する。
サスケが触れたためか、ゆやが小さく声を上げて身じろぎした。いつもの彼なら慌てて手を離すのだが、髪のことを考えていたサスケは手を動かすことを忘れていた。
不意に、その手首をがしりと掴まれる。
近付く気配に気付けなかった己を、サスケは恥じた。顔を上げずとも、その殺気と足元の黒い着物で誰かすぐにわかる。
「うるさくなるから起こすんじゃねぇ」
その言葉の裏に何か隠されているのか、サスケにはわからない。他の仲間たちのように、カマをかけたり、からかったりすることもできない。目を見開いて掴まれた腕を見つめるだけだ。
ただ、ぼんやりとした思いはあった。きっとこの男は・・・
「そんなこと言って、本当はゆやさんをゆっくり休ませてあげたいんだよね。狂さん優し~」
いつの間にかサスケの背後にやってきた幸村が、サスケの考えていたことをそのまま代弁した。きっとこの後、狂が白虎辺りを放ってくる・・・とサスケは思ったのだが、いくら待っても殺気だけで攻撃は来ない。
狂は吐き捨てるように舌打ちをすると、背を向けてサスケたちの元を去っていった。予想が外れ、ぽかんとした顔で狂が歩いていく方を見やるサスケ。
疑問を解決してくれたのは、優しそうな笑みを浮かべた幸村だった。
「ホント、ゆやさんには優しいね~」
いまだすやすやと眠るゆやは、どんな夢を見ているのか、嬉しそうに頬を緩めていた。