呼応

からころ、こつん。

小石の転がる音が、ほたるの耳に届く。河原で石を蹴るゆやと、それを見ていたほたるは、結構な距離があったが、人通りが少ないためかその音はよく聞こえた。
宿屋に着いて自由行動となった途端、仲間たちは思い思いのところへ出かけて行った。ほたるも宿に留まらず、外を散歩することにした。丁度ここの河原に差しかかった時、ゆやの姿を見つけたのだ。
独りで石蹴りを続けるゆやを、どれだけ眺めていただろう。

突然湧いた息苦しさに、ほたるは眉を顰めた。

ゆやを見つけた時はまだ青かった空が、今は夕焼けに染まっていた。昼間より風が冷たく感じる。
寒くなってきたから、不快になったのだろうかと、ほたるは考えた。
しかし、気候はまだ秋になったばかりだ。この程度でここまで嫌な思いをするはずがない。

石蹴りを見ていて、何か不快に思うことがあったのだろうかと考える。己の過去を振り返り、石蹴りの記憶を探し出す。
結局何も思い当たるものはなく、まだ続く息苦しさを和らげようと、ほたるは息を吐いた。吐いて、吐いて、吐ききれなくなったところで力を抜く。空気が勢いよく肺へと流れ込んだ。
一瞬、スッキリとした気持ちになったが、すぐにまた苦しくなった。

もやもやとしたまま、ゆやへ視線を戻す。原因は彼女にあるのかもしれない。
ゆやに不満でもあっただろうかと、ほたるは考える。彼女が己に向けた笑顔を思い出し、少し苦しさが減った気がした。
やはりゆやが原因だったのだと、確信するほたる。彼の無気力な表情が、ぴくりと動く。
しかし、彼女にどんな不満を抱いたのかはわからない。
昨日も今日も、喧嘩をしたことも、彼女に対して苛立ったこともないのだ。ゆやはいつでも嬉しそうに、自分へ話しかけてくるのだから。
今日、ゆやと話した時のことを思い出すと、また苦しさが薄れた。
不思議そうに首を傾げ、意識を河原のゆやへ戻した。まだ石を蹴っているゆや。先ほどよりは幾分マシになったが、まだ息苦しさは消えない。
苦しくなった原因は何だったのだろう。腹でも空いたのか、と他の考えがほたるの頭を過った時。

「ほたるさん!」

いつもの笑顔と、少し驚きの混じった表情で、ゆやがこちらへ手を振る。
ほたるは、呆けたような顔でゆやを見ていた。暫く手を振り続けていたゆやが、反応のないほたるに首を傾げる。
「気付いてないのかしら?」
ゆやが彼の元へ行こうとした途端、ほたるが立ち上がった。
高下駄をからからと鳴らして、ゆやの元へ辿り着く。ほたるの顔を見上げ、ゆやはいつものように嬉しそうな顔で笑った。
「ほたるさん、機嫌がいいみたいですね」
「・・・ん。もう苦しくないから」
「えっ、苦しかったんですか?大丈夫ですか?」
一転して心配した顔になるゆやに、ほたるはうっすらと笑う。
「大丈夫。ここに来られたから」
「・・・へ?」
「原因がわかってよかった、よかった」
「えーと、私は何が何だかさっぱりなのですが・・・」
一人満足して頷くほたるに、ゆやは困惑を含んで苦笑するのだった。