捕物
短筒を頬の傍に構え、物陰に潜む。どうやら先回りは成功したようだ。
ゆやは短く浅い呼吸を繰り返し、神経を研ぎ澄ませて獲物を待った。ここで逃すわけにはいかない。プレッシャーが彼女の喉を締め付ける。無理やり気道を広げるために、大きく息を吸った。まだ冬の冷たい空気が、彼女の肺に満ちていく。太陽は真上にあったが、今日は一段と寒かった。
視界の届かない場所の気配を探る。音と匂いも使って、辺りの様子を窺う。誰もいないようだ。そう判断して、そっと頭を物陰から出して視線を走らせる。思った通り、周りには人も獣も鳥もいない。
そして再び物陰へ身を潜め、獲物を待つ。彼女の周りには常人を遥かに超えた人間ばかりいるので、この程度ではすぐに見破られてしまうのではないかと不安になる。しかし、今回の相手は常人のはずだ。少なくとも、彼らよりはずっと弱いはずだと自分に言い聞かせる。
ざり・・・と、砂利を踏みしめる音が響いた。
「・・・っ!!」
吐き出していた息を止め、近付く気配に集中するゆや。獲物が一歩ずつ近付いてくる。決して失敗は許されない。自分にはもう後がないのだ。
ここで逃したら、明日の生活費が危うい・・・!!
「お前から襲ってくるとは珍しいな。そんなに相手をしてほしいのか」
にやりと口の片端を吊り上げた狂に、ゆやは寸でのところで引き金にかけた指を止めた。きっと撃ってしまっても、狂ならば余裕で避けるだろう。
想像していたものと違う光景に、開いた口が塞がらないゆや。呆然として動かなくなってしまった彼女が再び動きだすまで、狂は大人しく見守る。
随分経ってから、やっとゆやは口を開いた。
「・・・・・っき、狂!?何で、ここに?いえ、それはどうでもいいわ!あ、あいつは!?私の生活費は!?」
「何の話をしてんだよ」
珍しく狂に突っ込みを入れられるほど取り乱していたゆやは、まだ動揺の抜けきらない顔で口を開く。
「し、賞金首を捕まえようとしてたの!こっちに来るはずだった、の・・・に・・・」
言いながら、嫌な予感がゆやの脳裏を駆け巡った。狂の顔を窺うと、何が嬉しいのかにやにやとしている。こんなにも自分は焦っているのに、その余裕たっぷりな表情が気に食わない。
「ああ、そういや途中で男がいたな」
「そ、そいつよ!どこに行ったの!?」
「さあな。ガン飛ばしてきたから睨み返したらどっか逃げたぜ」
「何てことを・・・!!」
がっくりと地に手と膝をつくゆや。しかしいつまでも落ち込んでいる暇はない。この間にも賞金首は逃げ続けているのだ。狂に文句を言うのは後でいい。
手と膝の砂を払って立ち上がり、ゆやは決意を新たに空へと拳を突き上げる。
「どんな時でも諦めたらだめよ!」
駆け出すゆやを見送る狂。彼女を見ていると本当に飽きない。
あの程度の男ならゆや一人でも平気だろうが、また面白いものが見られるかもしれないと、狂は彼女の後をゆっくりと追いかけた。