授与

「サスケ君、はいっ」
ゆやの朗らかな声と共に、サスケの目の前へおにぎりがころんと置かれた。黄金色の瞳をぱちりぱちりと瞬かせるサスケ。普段の俊敏な動作からは想像もできないような動きで、視線をのろのろと移動させる。
「どうしたの?」
あまりにもサスケが呆けたような顔をしているので、ゆやが不思議そうに首を傾げた。
「・・・えっと・・・これは?」
「これはおにぎりだよ」
「それはわかってる。どうして俺に?」
「だってサスケ君は食べ盛りだから、それだけじゃお腹が空くでしょう?」
ゆやの言葉に、サスケはまたどうしてよいかわからなくなる。これでも一応、忍びと言う肩書を持っているので、ある程度の絶食は耐えられるのだが、それを彼女に伝えるべきか。
少し考えて、サスケはそれを伝えることをやめた。そう言ったところできっと彼女は、おにぎりを勧めてくるだろう。
「さ、サスケ!?お前そこまで腹が減っていたのか?」
そんなことを考えていたサスケの後ろで、才蔵が驚愕の声を上げる。彼もサスケと同じ忍びの立場なので、サスケがおにぎりを返さなかったことに酷く驚いたようだ。忍びの事情がわからないゆやは、才蔵の驚く意味がわからずきょとんとしている。
「忍びのお前が人に飯をたかるとは、余程の事があったのだな。それならこの握り飯を食べていいぞ」
「いや、いらないから」
「しかし、ゆや殿の握り飯は受け取っていただろう」
「っ・・・いや、これは・・・」
「ゆや殿の食事を減らすくらいなら、こっちを食え。気にするな、忍びに絶食はつきものだからな」
「・・・・・」
才蔵が自分のおにぎりをサスケの前に置き、ゆやのおにぎりを彼女へ返す。忍び同士のやりとりを見守っていたゆやは、おにぎりを受け取り、先ほどのサスケと同じようにぱちりぱちりと目を瞬かせた。
「えっと・・・それだと才蔵さんのご飯がなくなっちゃいます。こっちを食べて下さい」
「いやいや、この程度の絶食は慣れていますから気にしないで下さい」
「いえいえ、食べられる時に食べておかないと後で倒れちゃったら大変です」
「いやいや、ゆや殿こそ今のうちにきちんと食べて下さい」
「いえいえ、私は朝にいっぱい食べたからまだ食べなくても大丈夫です」
「いやいや」
「いえいえ」
延々とおにぎりを渡しあっている二人の間に、サスケがずずいと割り込んだ。どことなく不機嫌そうだ。むっとした顔のまま、才蔵からもらったおにぎりを彼に返す。そして、おにぎりを渡そうとしていたゆやの腕を掴み、才蔵を見やる。と言うより、睨む。

「ゆや姉ちゃんと一緒に食べるから」

邪魔をするなと視線で訴えるサスケ。かくかくと才蔵が頷く。突然の事態についていけないゆやは、サスケに引っ張られながらおにぎりを落とさないことに必死だった。

一行から少し離れたところまで移動して、サスケは足を止める。仲間たちの視線が届かないよう、木の陰に腰を下ろした。ゆやも続いて隣に座る。
彼女が持っていたおにぎりを手に取り、半分に割るサスケ。無言のままその片割れを彼女に差し出す。数度目を瞬かせた彼女は、嬉しそうに笑ってそれを受け取った。
「ありがとうサスケ君」
「それ、俺の台詞なんだけど・・・」
そのまま他愛ない話をしながら、二人で仲良くおにぎりを食べた。
あの時おにぎりを断らなかったのは正しかったと、サスケは思った。