探瞳

サスケは思い切り上半身を仰け反らせていた。思いもよらぬ状況に目を見開き、口は僅かに開かれたまま浅い呼吸を繰り返す。
「っ・・・ゃ、ね・・・ぇ・・・!?」
口にした相手の名は、絞りかす程度にしか声にならなかった。もちろん、そんな小さな声がゆやに届くはずもない。

たとえ彼女がサスケに触れそうなほど近くまで顔を寄せていたとしても。

駆け寄って来るなりずずいと身を乗り出すようにして見つめてきたゆやに、サスケは思い切り動揺した。忍びにはあるまじきことだが、驚きに身を硬くして動けなくなってしまったのである。それほどゆやとの距離は近かった。今まである程度の触れ合いはあったものの、肩を掴まれじっと瞳を覗き込まれると言うのは初めてのことだ。
プレッシャーに耐えられず、サスケはじりじりと上半身を反らせてゆやとの距離を取ろうとする。しかしサスケが引いた分だけ、ゆやが前に乗り出してきたので結局二人の距離は縮まらない。先ほどより辛い体勢になってしまったサスケは、忍びの能力で何とかバランスを保っていた。このまま後ろに倒れたら、彼女が危ない。自分が危ないのかもしれないが。
ゆやの翡翠色の瞳が、サスケの黄金色の瞳を映している。綺麗だな、と混乱する意識の中で思った。

「綺麗だね」

自分の思考を読まれたのかと、サスケは感じた。いつの間にそんな能力を身に着けたのだと驚いたり、これはその能力を試しに来ただけなのかと落ち込んだり、短い間に色々な思いが過ぎる。
「サスケ君の目」
「・・・俺?」
ゆやはいつものように柔らかく笑って身を引いた。解放されたような気分に安堵するサスケだったが、同時に少し寂しいとも思う。
「うん。さっきね、狂の目も見てきたの」
「・・・・・?」
どうしてそんなことをしたのか、不思議に思った。そして何故その後サスケの目も見に来たのか。この後また別の誰かの目を見にいくのか。誰の所へ行くにしても、あまり先ほどのようにくっついてほしくない。色々と思うが、結局何を言えばいいのかわからず口を閉ざす。
「紅くて綺麗だったけど、でも、サスケ君の方が綺麗」
「・・・何で?」
「うーん・・・サスケ君の心が綺麗だから?」
「そんな訳あるか」
「あはは、じゃあ、私が好きだから」
「っ・・・な、にが・・・?」
「金色が。小判の色だし」
「・・・・・」
大いに動揺した自分を殴りたくなる。先ほどからゆやに振り回されてばかりだ。何か自分にも反撃できないかと考える。ゆやが口を開く前に。早く、早く何か言いたい。

「俺は、ゆや姉ちゃんの目の方が好きだけど」

ゆやがぽかんと口を開けた。先ほどのサスケほどではないが、それなりに驚かせることはできたらしい。少し満足するが、その優越感は後から押し寄せた羞恥心であっと言う間にかき消された。視線をそらすが、逃げ出すことは辛うじて耐える。
どうにか視線だけを彼女の方へ戻すと、ゆやが嬉しそうに頬を緩めて微笑んでいた。