置行

ゆやの後姿が見えなくなるほど遠くなったところで、男たちの気配が鋭い物へと変わった。
「ゆやさんが戻る前に片付けられるといいんだけどね」
幸村がぽつりと言う。彼女には結構な量の買い出しを頼んだので、それほど短時間では戻ってこないだろう。
サスケは幸村の言葉が希望であり、叶う望みはかなり低いようだと判断した。これから斃しに行こうとしている相手は、サスケと面識がないのでどれだけ強いのかはわからない。しかし、既に会ったことがある者たちの表情を見ると、そう簡単に勝てる相手ではないことくらいはわかる。
狂が身を翻して歩き出した。仲間たちもそれに続く。サスケは幸村が動くのを待っていた。しかし幸村はまだ動かない。何故かにこにこといつもの笑顔でサスケを見ている。何か嫌な予感を覚えながら、サスケは主の言葉を待った。

「サスケは留守番お願いね」

「あ、あれ・・・?」
両手一杯に荷物を抱えたゆやは、戻ってくる場所を間違えてしまったのかと思った。しかし、サスケがここにいるのだから、場所は合っているはずだ。
「サスケ君、皆は・・・?」
「知らねえ」
思い切り不貞腐れているサスケは、つっけんどんに言い放つ。八つ当たりもいいところだったが、お人好しの彼女は自分がサスケに迷惑をかけたのではないかと判断した。
「あ、えと、もしかして、私が遅くなっちゃったから、サスケ君だけ置いていかれちゃったの?」
「・・・・・」
「ご、ごめんね」
「・・・そうじゃ、ない」
「え?」
「ゆや姉ちゃんのせいじゃない・・・」
幸村には、ゆやを一人にするのは心配だからと言われていた。しかしそれはサスケを納得させるための建前だ。少なくともサスケはそう思った。そしてそれが、彼を大いに機嫌を損ねている原因だった。

「俺が足手まといだから、置いていかれただけだ・・・」

サスケが付いて行ったところで、どれだけ役に立てたかはわからない。自分よりも強い漢が沢山いるのだから、いなくても戦力的には問題ないだろう。客観的に見て、サスケが残されたのは当たり前と言えば当たり前の話だった。
しかし、素直に納得できるはずもない。

「皆、サスケ君のことが足手まといだなんて思ってないわ」

荷物を置いたゆやが、サスケの隣りに腰を下ろす。慰めだとサスケは思った。
「それなら、連れて行くだろ」
「連れて行かない時もあるよ」
「何で・・・」
「サスケ君のことが大切だから」
「・・・?」
「無理して怪我してほしくないもの」
「で、でも・・・俺は・・・」
「もしかして、皆ちょっと危ないことしようとしてるんじゃないかな。それでサスケ君に何かあったら大変だから、幸村さんはここに残るように言ったんだよ」
「それなら俺も・・・戦力は、多い方がいいだろ・・・?」
「本当よね!私もちょっとは戦えるのに!」
頬を膨らませて怒りながら同意するゆやに、サスケはどう反応した物か迷う。
「あ・・・ゆ、ゆや姉ちゃんは・・・ここで待ってた方が・・・その、安心できるって言うか・・・」
「・・・そうよね。私、思いっきり足手まといだし。ここで大人しくしてた方がまだマシよね・・・」
「い、いや、そう言う訳じゃなくて、ゆや姉ちゃんには、危ない目に遭ってほしくないから・・・・・・・・・」
彼女を足手まといだと思ったことはない。たとえほとんど戦力にならなくても、彼女には精神的に支えられることも多い。大切な仲間だからこそ、戦いに巻き込みたくないのだと、サスケは伝えようとした。伝えようとして、気付く。
「ありがとう、サスケ君。私のこと、大切に思ってくれて」
嬉しそうに、少し照れながら、ゆやが微笑む。
「きっと幸村さんも同じだよ。サスケ君のことが大切だから、危ない目に遭わせたくなかったんじゃないかな。もし本当に助けてほしい時は、ちゃんと一緒に来てって言ってくれるよ」
「・・・そう、かな」
「うん」
自信たっぷりに頷くゆやを見ても、まだ心の底からそう思うことはできなかった。それでも、先ほどまでと比べて心は随分軽くなったと思う。
やはり彼女には支えられてばかりだとサスケは実感するのだった。