独歩
狂たちが街中でゆやを見つけ出した時、彼女は柄の悪い男と睨み合っていた。どう控え目に見てもチンピラである。暴力を振るうことは日常茶飯事と言った風貌だが、強さは彼らの足元にも及ばないだろう。
ゆやの後ろでは、泣き顔の子供が彼女の足にしがみついて震えている。
「チンピラに因縁つけられた子供を助けに入ったってとこか?」
「そうでしょうね。ゆやさんはこう言うことを見過ごす性格ではありません」
梵天丸とアキラの言葉に、仲間たちも同意する。
「探しにきて正解だったね。でも、あれくらいの相手ならゆやさん一人で大丈夫だったかな?」
「ゆや姉ちゃんなら余裕だろ」
幸村の自問とも取れる呟きに対してサスケが応えた。
彼らが遠くから見守っていることなど知らず、ゆやは男へ向かって声を張り上げる。
「こんなに小さい子供にぶつかられたくらいで大騒ぎするなんて、大人として情けないと思わないの!?」
「迷惑なガキは今のうちにしつけといてやるんだよ!」
「蹴り飛ばすことのどこがしつけなのよ!?この子まであなたみたいになったらどうしてくれるの!?世の中をあなたみたいな野蛮人だらけにしないで!」
「なんだとこのアマ!ひん剥かれてえのか!?」
「女と見ればひん剥きたがるなんて、どこまで野蛮なの!?それとも男でもひん剥きたがる変態!?」
「なっ、んな訳ねえだろ!!」
「言葉に詰まったわ!やっぱり変態なのね!」
「違うわ!」
ゆやの言葉に、周囲の人々からざわめきが起こる。あいつ変態なのか?と言う小さな囁きに反応した男は青ざめて叫んだ。
「じゃあ証拠を見せなさいよ!あなたが変態じゃないって言う証拠を!」
「そんなもん見せられねえよ!」
「見せられないならやっぱり変態じゃない!」
「だから違うって!何を見せろってぇんだよ!?」
「あなたが変態じゃない証拠だって言ってるでしょう」
「それは具体的に何だって聞いてんだよ!」
「私たちが、あなたは変態じゃないと思える何かよ。さあ、あなたの言葉と行動で私たちを納得させてちょうだい!」
「ぐっ・・・そんなのわかんねぇよ・・・!」
男が力をなくして膝をつく。ゆやは手を貸すことも見捨てることもなく、男へ力強い声を浴びせた。
「そんなにすぐ諦めていいの!?あなたはこれから変態と言うレッテルを背負って生きていくことになるのよ!?」
「だ、だってよ・・・俺が何を言ったところで皆信じちゃくれねぇし・・・」
すっかり気を落としてしまった男に、ゆやは続けて話しかける。
「諦めないで!あなたが本気で訴えれば、きっと皆の心に届くわ!」
「そんなの無理だ・・・!昔から俺の言うことなんて誰も聞いちゃくれねぇ!」
「何を言ってるの!私が今、こうしてあなたの話を聞いているじゃない!皆だってあなたがこれから言うことを聞こうと待っているのよ!」
そうだそうだ、と周囲の野次馬から合いの手が入った。
その反応を見て、男の弱気な瞳に光が戻る。
「あ、ありがとう、皆・・・!」
「さあ!あなたが伝えたいことを力一杯叫ぶのよ!」
「おう!」
ゆやのかけ声に男が頷き、野次馬たちから歓声が上がる。
「俺は・・・!俺は変態じゃないんだあぁああっ!!」
男の魂からの叫びに、周囲から惜しみない拍手が送られた。
「よかったわね!ちゃんと皆に届いたじゃない!」
「ああ、ありがとう!ありがとう!」
ゆやの言葉に男は瞳を潤ませて礼を言う。
「あなたは変態なんかじゃないわ!これからも、清く正しく生きるのよ!」
「ああ!さっきは怒鳴って悪かったな。チビ助も、蹴り飛ばしてすまなかった」
ゆやの後ろでぽかんとしていた子供は、突然頭を下げられて戸惑い気味に頷く。
「何だよ、あれ・・・」
「うーん、相手を斃すのは、殴るだけじゃないって言う教訓、か?」
「相手を納得させた上で従わせるのは難しいよねえ。僕も見習わなくちゃ」
「つまりあの男は変態なの?」
「変態じゃないって叫んでましたよ」
「くだらねえ・・・」
仲間たちの視線の先では、ゆやが清々しい笑顔で男の旅立ちを見送っていた。