団子

「あげる」
短く言うと、ゆやは串に一つだけ刺さった団子を狂へ向けた。自分がお腹いっぱいになったから、押し付けようとした訳ではない。彼のことを思っての親切心だった。
狂は口元に突き出された団子を、少し寄り目がちに見やる。あんこがたっぷりまとわりついたそれが、ぴこぴこと小さく上下に揺れた。途端に彼の紅い目が細くなり、ゆやは機嫌を損ねたことに気付く。鼻先で団子を揺らしたことが、そんなに嫌だったのだろうか。
「俺はお前と違ってガキじゃねえんだよ」
「大人だってお団子は食べるじゃない。甘い物は元気になるわよ。狂も食べた方がいいと思う」
「・・・俺が弱ってるとでも言いたいのか」
低い声で言い、眉間に皺を寄せる狂。ゆやはどう言ったものかと暫し迷う。今の狂には何を言っても、不快にさせるだけかもしれない。しかし、何も言わなくても同じだろう。悩んだ末に、彼女は口を開く。
「うーん・・・弱ってるって言うか、何だか元気がないように見えたの。だから、お団子で元気になってもらおうと思って」
「・・・・・」
「何か悩んだり困ったりしていることがあるのかもしれないけど、狂が困るようなことを、私がどうにかできるとは思えないし。あ、話を聞くとかならできるけど」
「・・・・・」
「だからせめて甘い物を食べて、狂が少しは楽しい気持ちになれるといいなって・・・このお団子、美味しいし・・・」
ゆやが話す間、狂は何も言わない。しかし、こちらを見る目が少し和らいだような気がした。ゆやはもう一度、持っていた団子の串を上下に動かす。
「お団子、どうぞ」
「・・・そんな食いかけの団子はいらねえよ」
「う、ご、ごめん。狂が元気なさそうって気付いた時には、もうお団子食べ始めちゃってたから・・・ちょっと時間かかるけど、お店に戻って買ってこようか?」
「・・・・・」
尋ねると、狂は無言でゆやの口元を凝視した。その意図がわからず、ゆやはきょとんとする。少しだけ口の端を緩めた狂が、ゆやの頬へ手を伸ばした。

「このあんこまみれの顔で行くのか。いい笑い者だな」

狂がからかうように言い、親指でぐいとゆやの口元を拭う。
「っえ、えぇえ!?」
顔を真っ赤にして、ゆやが狂から離れた。いつからあんこがついていたのか、もちろん団子を食べている最中だろう。狂に団子を差し出した時にはもうついていたと言うことだ。彼からのガキだと言う指摘は、口元にあんこをつけた姿も含まれていたに違いない。
「とっ、取れた?もうついてない?」
「さあ、どうだろうな」
「い、いじわる・・・!」
「団子を買いに行くんじゃなかったのか?」
「うう・・・い、行くわよ!行けばいいんでしょっ!」
口元を拭いながら、ゆやは身を翻して走り出す。楽しそうに自身の親指を舐める狂の姿が、視界の端にちらりと映った。