河近
その河原には、温かな日差しが柔らかく降り注いでいた。
大部分が砂利の川縁なのだが、一部だけ草がふわふわと茂っている場所がある。そこはまさに絶好のお昼寝ポイントであった。
しかし、そこに歩み寄ろうとしていたゆやは急に足を止める。
そこでは小さな鳥が二羽、仲睦まじくさえずり合っていたからだ。そしてその傍で、ほたるが大の字になって寝ていたからだ。
彼らはぽかぽかとした日差しを浴びて、とても気持ちよさそうに過ごしている。そこに自分が近付いたら、鳥たちは慌てて逃げてしまうだろう。ほたるも目を覚ますかもしれない。折角くつろいでいたのに、それは気の毒だとゆやは思った。
まだある程度の距離はあったが、彼女はできるだけ音を立てないようにして、彼らに背を向ける。
すると、後ろで鳥の羽ばたきが聞こえた。やってしまったと後悔するゆや。しかし、彼女のせいではなかったようだ。
「来ないの?」
振り返ると、起き上がったほたるがかくりと首を傾げている。彼が動いたため、鳥たちは逃げ出したのだろう。そのことに少し安堵するゆや。だが、ほたるの眠りを妨げてしまったことは変わらない。
「ごめんなさい。寝ているところを邪魔したら悪いかと思って」
「・・・俺は悪くないと思うけど」
「そ、そうですか?ならよかった」
来ないのかと聞かれて、このまま立ち去るのもどうかと思ったゆやは、ほたるの隣りへ歩み寄り腰を下ろす。想像の通り、そこは温かくてふわふわと心地よい場所だった。自然と頬が緩む。
「・・・何が悪いの?」
「えっ?」
目を見開いて横を向くゆやの瞳に、不思議そうな顔をしたほたるが映る。
「行きたいところに行くことの、何が悪いの?」
「えっと、それは悪くないと思いますけど、寝ているところを邪魔されたら、嫌じゃないんですか?」
「・・・・・さっきは、嫌じゃなかった」
「そ、そうなんですか」
場合によっては嫌な時もあると言うことか。今回は運がよかったらしい。
「でも、俺がどう思うかは関係ないよ。あんたがここに来たいと思ったなら、来ればいい」
「・・・でも、ほたるさんが嫌がることはしたくないです」
「嫌かどうかなんて、聞かなきゃわからないよ」
「う、た、確かに」
「だから、気にしなくていいよ」
「うーん・・・そう言われても、やっぱり気になります」
「神経質だね」
「ほたるさんと比べたら、ほとんどの人が神経質なタイプになると思います」
「そう?」
全く心当たりがないと言う様子に、ゆやは小さく笑った。いかにも彼らしい。
「はい・・・でも、ありがとうございます。気にしなくていいって言ってくれて、嬉しかったです」
ほたるがぱちりと目を瞬かせた。不思議そうな顔をしているので、何故ゆやが嬉しいのかわからないのだろう。しかし、彼はそれ以上気にしないはずだ。だから理由を言うことはやめた。
「ふぅん・・・じゃあ、今度また言う」
「え?」
「嬉しいんでしょ?」
「は、はい」
「だから、あんたを喜ばせたくなったら、また言う」
ほたるの行動理由は、自分がそれをしたいかどうかが最優先なのだ。ゆやは思わず笑い声を漏らした。
「あははっ、はい、楽しみにしてますね」
突然笑い出したゆやを、ほたるはやはり不思議そうに見やっていた。