騒心

「っほ、ほたるさっ・・・!?」
「だいじょうぶ、痛くしないから」
「で、でもっ、まだ心の準備が・・・!」
「じゃあこのままでいいの?」
「それは困ります・・・!!」
「じゃあおとなしくして・・・行くよ」
ゆやの耳元に囁きつつ、ほたるは彼女の首元から背中に手を差し入れた。
ゆやがぎゅっと目を瞑り、大きく身を震わせる。彼女の背中はひどく熱かった。肌が少しばかりしっとりとしているのは、暑いからなのか、それとも冷や汗だろうか。ゆやの背中に手を這わせながら、頬を赤く染める彼女を見ていると、何故か胸の奥がざわざわとした。うれしいような、苦しいような、不思議な感覚がほたるを包む。

このまま彼女をきつく抱きしめてしまいたい。

そんな衝動を、ほたるが我慢するハズもなく。彼女の着物から手を抜き、幾ばくか安堵の表情を浮かべかけたゆやの顔を見つつ、その身体を両腕で包みこんだ。
ゆやの顔が驚きの表情に変わるのを視界の端に捕らえつつ、さらに腕の力を籠める。
「ほっ・・・ほたるさ・・・!?ああ、あの!」
「・・・何?」
何故か頭の奥がぼおっとしてきた。ふわふわとした感覚で、心地よいような、もどかしいような、不思議な気持ちになる。夢うつつのような状態で返事をすると、ゆやが身を捩らせつつ、慌てた様子で聞いてきた。
「と、取れましたか!?」
何を?と聞き返しそうになったが、ふと思い出した。自分が何をしようとしていたのかを。
「・・・あ、取ってない」

ゆやの叫び声が、辺りに響いた。

「どうしたゆやちゃん!?」
「って何してんだほたるテメェ!」
「ゆやさん襲われてるー。僕も仲間に入れてー」
「何言ってんだ幸村!」
ゆやの声に集まってきた仲間たちが、一斉に手を伸ばしてほたるとゆやを引き離す。
パニックになっているゆやを、灯がなだめようと背中に手を触れた途端、さらにゆやが飛び跳ねた。
「だめなんですー!」
「な、何がだめなの!?」
うろたえながら問う灯に、涙目のゆやが叫んだ。

「今背中に毛虫がー!!」

「何だ毛虫か。何事かと思ったぜ」
「でも今すごい背中を圧迫してたよねー?あんなことしたら毛虫が潰れてるんじゃない?」
幸村の言葉に、ゆやの顔がさらに蒼白になる。
「ととと!取ってくださいー!」
「とりあえず落ち着け!じっとしてなさい!」
灯が先ほどのほたるに続いて、ゆやの背中に手を突っ込む。ざっと動かすが、抜いた手には何もつかまれていなかった。
「何もいないじゃない」
「え・・・そうなんですか?毛虫、潰れてない・・・?」
「ほたるの見間違いじゃないの?」
「あ、ほたるさんは見てないんです。何か背中に落ちてきた気がして、そばの木に毛虫が何匹かついてたからてっきり・・・」
その言葉に、少し離れた木を見たサスケが、毛虫を見つけて顔をしかめる。何匹どころではなかったらしい。
「よ、よかったー・・・お騒がせしてすみません」
へたり込むゆやに、ほたるが言う。
「また騒いでくれていいよ」
『お前は黙ってろ!』
仲間たちのツッコミが見事に唱和した。