相言

「ヴェイグとクレアってさ、お似合いだよね」
「っ!?」
「今更何を当たり前のこと言ってんだ、マオ」
「っ・・・!!」
「今、二人を見ててそう思ったの。ヴェイグは見た目カッコいいしさ、クレアは美人だしさ」
「ぉ・・・!?」
「そうだな。んで?」
隣を歩くティトレイに尋ねられ、マオはきょとんとした顔で彼に視線を向ける。
「んで、って?」
「だから、ヴェイグとクレアが美男美女でお似合いだって話をして、お前は何がしたいんだって聞いてんだよ」
「え、別に・・・」
「別に何もないってのは、あんまりじゃねえか?ヴェイグが滅茶苦茶震えてるぞ」
言われてやっと、マオはすぐ後ろを歩くヴェイグが顔を隠して肩を震わせていることに気付いたのだった。隣には口元に手をやり、くすくすと笑うクレアがいる。他の面子は、もっと後ろで別の会話をしているため、こちらのことには気付いていないようだ。
「ま、お前がヴェイグに食い物の恨みでもあって、復讐したいとか思ってるなら仕方ないけどな」
「っそ、そうなのか・・・!?」
ティトレイの言葉を鵜呑みにして焦るヴェイグ。慌ててマオも両手を振る。
「そんな訳ないじゃん!えっと、ごめんね、ヴェイグ。ボクまたよく考えずに言っちゃって・・・」
「いや、マオは悪くない・・・」
「そうよ、美人でお似合いって言ってくれて嬉しいわ」
ふふっ、と笑いながら言うクレアに視線を向けてから、ヴェイグはまた顔を伏せる。長い前髪に隠れて、その表情はマオから見えなくなった。
クレアは笑っているし、嬉しかったと言っているから、先ほどの自分の言葉は問題なかったのだろう。ではヴェイグはどうなのか。顔を隠し、何も言わない彼は、自分の言葉をどう思ったのだろう。そんな彼に、自分はどんな言葉をかければいいのだろう。
困ったマオは、隣のティトレイを見上げた。彼はにやにやと笑いながらこちらを見ている。これは自分が悪いことをしてしまった時の顔ではない。視線を移すと、クレアはにこにことヴェイグを見ていた。ヴェイグの隣りにいる彼女は、彼の伏せられた顔が見えているのだろうか。幼馴染で家族でもある彼女は、ヴェイグが何を思っているのかわかるのだろうか。

暫く悩んで、マオはおずおずと声をかけた。
「えっと、ヴェイグ・・・怒ってる?」
「いや、怒ってはいない」
尋ねると、ヴェイグはすぐに顔を上げて否定した。それにマオは安堵する。
「じゃあ、嫌だった?それとも、悲しませちゃった?」
「そんな訳ないだろう」
「そうなの?えーっと・・・じゃあ、困らせちゃったの、かな?」
先ほどまでと同じように、首を横に振りかけたヴェイグだったが、そこでぴたりと動きを止めた。
「・・・・・いや・・・そう・・・だな。困ったと言うのは、当たっていると、思う」
歯切れの悪い言い方をするヴェイグは、隣りのクレアのことを気にしているようだった。そんなヴェイグと、何も言わずにこにことしているクレア。二人は互いに何を思っているのだろうか。ついでに先ほどからこちらを見て、にやにやとしているティトレイも。
「困らせちゃって、ごめんね」
「いや、マオは悪くない」
「でも、困らせるのはよくないことだよ」
「・・・だが、マオは思ったことを言っただけだ。それに俺を困らせようとした訳でもない、だろう?」
「それはもちろん!」
「だから、マオは悪くない」
「・・・そう、なのかな?この前は、悪気がなくても傷付けるのはよくないって思ったけど、困らせるのもやっぱりよくないんじゃないかな」
以前マオは、何気なく発した言葉でヴェイグを傷付けてしまった。それから気を付けようと決めたのに、今度はヴェイグを困らせている。自分はこれからどうすればいいのだろう。
珍しくしょぼんとしてしまったマオの頭に、ヴェイグの片手が乗せられた。
「・・・マオの言うことは正しい。相手を困らせないようにするのは、大事なことだ。だが、あまり気にすると何も言えなくなる」
まさに今の自分がそうだと、マオは思った。
「気遣ってくれるのは、嬉しい。だが、それでお前を困らせたり、落ち込ませたりはしたくない」
「・・・そっか。ヴェイグも僕と一緒なんだね」
「ああ。だから、お前はいつも通りでいい」
「またヴェイグを困らせてもいいの?」
「仲間と言うのは、迷惑を掛け合うのものだろう。その・・・・・俺は、今まで褒められたり、その・・・そう言うことを言われることがあまりなかったから、どう言う顔をしたらいいか、わからなかっただけだ。お前が気にする必要はない」
「・・・そっか。ありがとう、ヴェイグ」
やっとマオの顔に笑顔が戻る。それを見て、ヴェイグも小さく口元を緩めた。
「いいこと言うじゃねえか、ヴェイグ!感動したぜ!」
ティトレイがばしばしとヴェイグの肩を叩く。
「お前はもう少し周りの迷惑を考えた方がいい」
「おいおい、仲間だろ!」
「仲間でも程度と言うものがある」
軽口(もしかしたら本気かもしれないが)を叩き合う二人を見て、マオとクレアは声を上げて笑った。