仲良
夜営をすると決めた森の中で、野宿の準備をする一行。ユーリとカロルとラピードは薪集めに行き、残る面々は食事の支度やら寝床の用意やらに動いていた。
「ちょっとあんた、サボってないで手を動かしなさいよっ」
「あら、ごめんなさいね」
「ほらそこっ、よそ見してると怪我するでしょっ」
「あら、ごめんなさいね」
「ほんとに聞いてんの?」
「あら、ごめんなさいね」
「・・・わざとでしょ」
「ふふっ、あなたの反応が面白くてつい。ごめんなさいね」
「ごめんなさいね、しか言えないのかあんたは!」
リタとジュディスが野菜を切りながら賑やかに言い合っている。ジュディスは楽しそうだが、リタはそろそろ怒りが頂点に達しそうだ。
術を放たれ食事が台無しにならないよう、ここらで宥めておこうとレイヴンが彼女たちの元へ歩み寄る。
「まあまあリタっち、ここはジュディスちゃんのナイスボディに免じて許してやってよ」
「なっ、か、身体は関係ないじゃない!」
「それにしてもジュディスちゃんはほんとナイスボディよねぇ」
「あら、ありがと」
「ここはとりあえず、スキンシップで新密度アップを図るのがいいんじゃないかしら」
「何がとりあえずなのか全くわからないけれど、遠慮しておくわ」
「じゃあリタっちは?」
「ばっかじゃないの」
女性二人に冷たくあしらわれたが、食事が黒焦げにされる危機は去ったようだ。
折角なので、一人黙々と寝床の準備をしているエステルにも話しかける。
「嬢ちゃーんっ」
「はいっ、何です?」
エステルが振り返ると、レイヴンが満面の笑みを浮かべていた。どれほど楽しい話題なのかと彼女は期待したが、次の言葉で思考が暫し止まる。
「おっさんとスキンシップしない?」
「・・・・・スキンシップ、です?」
「そうそう、スキンシップ」
「ど、どうしてです?」
「ほら、やっぱ新密度を高めるには濃厚なスキンシップが一番でしょ」
「そうなんです・・・?」
「そうそう、だからおっさんの広い胸に飛び込んでおいで!」
レイヴンが大袈裟に腕を広げると、リタと思われる殺気が背後から突き刺さってきた。食事の代わりに、寝床が黒焦げにされるかもしれない。
しかし、彼の予想は大きく外れる。
「は、はいっ、スキンシップ、受けてたちます!」
「へ・・・・・?」
「っ・・・!?」
「スキンシップは受けてたつものではないと思うけれど」
レイヴンが腕を広げたまま固まり、リタは術の詠唱を中断するほど驚愕し、ジュディスは思ったことを素直に口にした。
両拳を握り、何やら気合いたっぷりのエステルがレイヴンの元へ歩み寄る。生憎、彼の広い胸に飛び込むことはなかったが。
「私、もっとレイヴンと仲良くなりたいです。なのでどんなスキンシップでも負けません!」
まさかこれほど彼女が乗り気になるとは予想外だった。自分と仲良くなりたいと思ってくれるのはとても嬉しいが、いきなり何をしてもいいと言われると、こちらが困る。大変困る。
「スキンシップは勝ち負けでもないと思うのだけれど」
ジュディスの冷静な指摘が、凍りついた雰囲気の中に響いた。
「な、何があったの・・・?」
薪集めから戻ったカロルが、レイヴンとエステルの姿を見て尋ねる。
「仲良くなるためのスキンシップ、です!」
嬉しそうに答えるエステルだが、カロルは意味がわからず首を傾げた。
「確かに肩揉みもスキンシップの一種だな」
「わう?」
ユーリの声が少し震えていることに気付いて、ラピードも首を傾げる。レイヴンがエステルの肩を揉んでいることの何がそんなに可笑しいのか、犬の彼にはわからない。
それから暫く、エステルは仲間たちの肩を揉みたがるのだった。